ようこそニュートリノさん

ショートショート

1個のニュートリノが俺に向かってきていた。
いやそんな気がしていただけだったのかもしれないし、そんな気など全然していなかったのかもしれない。
気付こうが気付くまいがそれはほぼ光の速さで真正面から向かってくるならどんなに避けようと思っても避けられるはずもないだろう。ん?避けられる?だがどこに逃げる?あの電信柱の影に?それともいますぐ新幹線みずほに飛び乗ってふるさとの田んぼの畦道のはじっこに?それともむかしむかしの記憶のなかにある赤いあたたかな理想の海辺に?
そんなことを考えている間に実際それは俺の体を貫いた。
いやそんな気がしただけかもしれないし、でも実際そうだったかもしれない。
ニュートリノには質量がある。だからその瞬間、俺は思わず息を呑んだがそれは気のせいだったかもしれない。でも痛くはなかった。
とにかく俺は無事だったのでしばらくのあいだ俺は安堵していたが、実はそんなことはなかったかもしれないしとにかくなんであれ何事もなくよかったのだが。
しかしまだ安心はできない。いまにも新しい1個のニュートリノが俺の後頭部を貫くべく光の速さで今この瞬間にも火星の近くを通過している頃かもしれない。
気のせいかもしれないし取り越し苦労かもしれないが俺は今でも不安です。

(ニュートリノ)「ボクはたくさんいるよ」

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