レース展開をありありと思い描く。
『競馬の達人』 浅田次郎
・・・
メイショウはタレる。有力三頭が坂上でかわし、瞬発力に劣るカリブソングの外からヤマニンとシャコーグレイド。展開はこれ以外考えられなかった。
競馬について、何を最初に語ろうかと考えたが、まずは3冊の優れた本について触れようか。
『勝者の法則ーザ!ジョッキー・ゴールへの知的戦略』鶴木遵
古い本だが、騎手についての情報量と愛情と臨場感がこれでもかと詰まっている本。
特に、レースを同時期に真剣に検討して見ている人にとっては、めちゃめちゃ面白い。
例えば第1章 田原成貴。
サンエイサンキュー事件からの、有馬記念。
近代競馬の先行チョイ差しを日本に持ち込んだ先駆者、岡部ビワハヤヒデをさらにマークした位置から直線で並びかける。
たしかに、1馬身差から一瞬、1完歩か2完歩だけ脚色が同じになりかけたように見えた。
そこから鞍上田原は
「テイオー、頑張れ!頑張れ!頑張れテイオー!」
3度もあたりをはばかることなく叫んだというのだ。
ゴール前、トウカイテイオーは見事に若き本命馬を鮮やかに切って落とす。
後に「よく聞こえてたよ。わかったよ」と岡部は笑っていたという。
こうして、初の1年振りの鉄砲駆けでの有馬記念優勝で、G1競走4勝目を飾るのだ・・。
・・こんな話が、さらに前後のいきさつも含めて100倍の濃さと熱さでこれでもかと続くのだ。
ヤバめである。血沸き肉躍るというヤツである。
うーむ、うまく伝わるわけもないかあ。まあそんな本。
『知性派の馬券学』藤野広一郎
広角な視点から競馬の見方を、馬券の考え方をつめこんだ、これも密度の濃い~本。
ひとりの著者が持つ、その対象への把握の全体像が浮き出てくるような本というのは大抵おもしろい。
この本もそうだ。
そして語り口が個性があって、念入りだ。
自分で書いているとき、書くのが遅いせいか「こんなに一点の場所に留まって書いていていいのだろうか」とよく不安になる。
だからこういう本は参考になる。
そこに存分に留まって良い。その勇気を与えてくれるのだ。
後半の、馬券についての考え方も、多彩で、実践的で、おもしろい。
なんというか、バランスが良いのだ。
『競馬の達人』浅田次郎
後に直木賞を取ることになる浅田次郎の、初期にして最高傑作。
ネタのおもしろさは抜群。
文体も魅力的だ。
軽妙洒脱でありながら、ちょっと独特なリズムで、ひとつのセンテンスの中身に隙がないのだ。
初めて読んだときから、うまい文章だなーと感じたのを憶えている。
これ、著者近影の、アウトローっぽい雰囲気からは想像し難いぞ。
なにより、「本業の」競馬ついて語るうれしさで、生き生きとしている感じが伝わってくる。
競馬の魅力も馬券の奥深さも十分に伝わってくるし、随所で爆笑もさせられる。
とにかくおもしろい。
どの本も入手困難だが、読んでいない本、手に入らない本があり、そのことに思いを馳せるのもまた素敵なことだろう。
(どう素敵なんでしょw)
コメント